私がODする理由

 皆さんはOD(オーバー・ドーズ)という言葉をご存知ですか?
医療用語で過剰服薬のことを意味します。
精神疾患患者の方ならやったことがあるというひとやご存知の方もいらっしゃるでしょう。
ODの危険性は簡単に言えば大量に体内に入った薬の作用によって、間違えば死ぬことがあるということです。
現在、精神科で処方される薬物は大量に服薬しても死なない(死ねない)ように出来ていますが、副作用によっては昏睡状態に陥ったり、モノによっては死ぬこともありうる薬もまだ処方されている状況です。
 では、なぜ、人はODをしてしまうのか?
薬物中毒という病名を着せられ、どんな気持ちになるか?
主観で申し訳ないですがツラツラ書いてみたいと思います。

 現実世界に疲れ果て、なにもかも手放して楽になりたい。生きてる意味がわからない、死にたい。
本当にそう思ってる?

今出されてる睡眠薬全部飲んだら死ねるかな?とか、もらってる薬全部飲んだら眠りながら死ねるかな?とか、考えているのでしょうか。

否、違います。

確実に死にたいなら高いビルの屋上から飛び降りれば済むこと。(不謹慎ですみません)

 私がODする本当の理由は、死にたいからではなく、「生きたい」からなのです。辛い現実に直面した時、人は逃げるか闘うか選ぶことになりますが、ただ逃げるのは簡単です。
ODは間違った闘い方なのですが、それでも敢えて私はODは薬物による逃避ではなく、現実と向き合って、「落ち着こう!」と考えた結果の選択だと思うわけです。
ODによる危険な症状については少し割愛しますが、薬(安定剤、眠剤)をたくさん飲めばこの辛さを乗り切れるかもしれない、それは患者の最後の賭けといってもいいでしょう。
 RPGでよく、長旅に出るときは万端の装備で臨みますよね?魔法使いや僧侶はMPが無くなった時を想定して回復薬を持ったりします。パーティの誰かが死んでしまったら、生き返るためのアイテムや呪文が必要です。
これはゲームの世界の話ですが、現実の人間にも同じことが言えます。

流石に亡くなった人を生き返らせることはできませんが、高度で適切な治療法や、薬を服用することにより、自分自身のパラメーターを無意識にチェックしながら生きている人たちもいます。
どうしても避けられない敵(現実)と出会ってしまったら、もともと弱い人間なら回復薬を使いながら闘って勝利(解決)します。
大きな傷を負えば多くの薬が、必要になります。
ODとは、それだけ心に大きな傷を負い、回復するために用いる最後の手段なのです。

 傷は人によって様々です。
ですから、薬も多岐に渡ります。
私事ですが、ある液体状の薬を普段なら1回5mlのところ、どうしても辛いことで頭がいっぱいになったとき、30ml一気に飲んだことがあります。
この量は1日分で分けて出されることもありますが、一回でこれだけの量摂取すると、高熱が出て、全身が硬直し、下手したら死んでしまうとのことでした。
幸いにも副作用もなく、ただボンヤリとはしましたが、駆けつけた救急隊員の呼びかけにも答えられ、体温、血圧も正常でした。だからと言ってじゃあ次辛い事に直面したらもっとたくさん飲むかって言われれば飲まないですね。

それぞれに異なった辛さを抱えて生きている私たちは薬を必要としない人と、無ければ生きていけない人がいます。

私の場合、約20年に渡る親の宗教の洗脳から脱会したのはいいものの、その洗脳が原因で精神が崩壊しました。そして、35歳になった今、結婚や出産といった、一般的な女性の経験も諦めざるを得ず、毎日数え切れない程の薬を飲んで生活しています。完治することのない病気です。
入退院を繰り返し、点滴治療もしました。
なぜこんなに自分は具合が悪いのだろう、何も手につかない。
なぜこんな人生なんだろうと悔やんでも過ぎてしまった時間は戻らない。
残るのは、ただ小さな頃の私を恐怖政治で支配し、宗教教育を刷り込ませた母への憎悪だけです。
憎悪は復讐心を掻き立てますが、それを抑えるのもまた薬なのです。
よく、怒りが湧いたら10秒待てとかいいますね。それで収まればいいのですが、逆にどんどんエスカレートしてしまうこともあります。そんな時、この薬を飲めば、良からぬ企てを無しにして落ち着いた気持ちになって、過ごせる、というわけです。


 さて、危うく死ぬかもしれないODをして、救急搬送されたさきで初めて「薬物中毒の患者さん」と呼ばれた時、私はとても哀しくなりました。確かに中毒を起こしかねない量の薬物を摂取した点は否めませんが、なんかこう、薬物中毒っていうと、今話題の危険ドラッグとか麻薬中毒者の呼称のような気がして少し辛くなりました。
医師は常に冷静ですから、こちらが泣こうが喚こうが動じることなく対応してくれますので、ひとしきり吐き出せばこちらも落ち着きます。
薬をたくさん飲んでしまった経緯を涙ながらに話し、バイタルの安定を確認した上で主治医に連絡し、もともとかかっている精神科に戻ることになりました。
主治医は心配してくれますが、わたし自身が、退院→具合悪くなる→OD→入院、この負のスパイラルを抜けない限りいつまでも何も変わりません。

ODを二度としないと約束できるか正直不安で、自立が遅れています。
医師と固い約束をしなければまた繰り返すかもしれない。もし、ひとりで生活していて、またODしてしまったら、今度は誰も助けてはくれません。

しかし、何度かODするうちに何故してしまうのか?どんな時にしてしまうのか?その時の気持ちを整理して考えてみると、解決の糸口が見つかる気がします。
ODはとても危険な行為ですから、オススメしませんが、もし、したくなったら、先に述べた危険性と、自分自身の心の闇をもう一度みつめなおし、ODしても、現状が変わらないと思えば、別の行動を取れるかもしれません。
とても難しいですが、何か辛い気持ちでいっぱいになった時、OD以外の整理の仕方を考えるのはとても有益なことです。

さて、私はどうかな?